2004年3月28日 レストラン「ラ レゼルブ ひらまつ」
キース・ウォーナー演出による『ニーベルングの指環』第3夜の『神々の黄昏』が、3月26日から4月4日まで新国立劇場で上演されましたが、Bキャスト初日翌日の3月28日夕刻、日本ワーグナー協会は、東京西麻布のレストラン「ラ レゼルブ ひらまつ」に豪華なゲスト陣をお招きし、「ワーグナー夫妻と『神々の黄昏』関係者を囲む会」を催しました。久保敦彦神奈川大学教授が司会進行役を務め、細野達也日本ワーグナー協会理事長の挨拶で始まったパーティーには、当協会名誉会長であるヴォルフガング・ワーグナー夫妻の他、『黄昏』演出家や出演者、協会員等、約150名が出席しました。
恒例となった『トーキョー・リング』パーティーですが、今回初めて演出家のキース・ウォーナー氏と、夫人で演出助手のエマ・ウォーナー氏も登場。盛大な拍手で会場に迎えられました。関係者と直接話す機会を得た協会員は、ウォーナー氏や、ジークフリート役のジョン・トレレーヴェン氏、ブリュンヒルデ役のスーザン・ブロック氏等を取り囲んで、積極的に質問したり、感想を述べたりしていました。パーティーでは関係者への1分間インタビューも行われ、意外な人からユーモラスなパフォーマンスや発言が飛び出したりして、和気あいあいとした雰囲気の中、とても楽しい会となりました。また、席上、ワーグナー夫妻から協会に、ジークフリートに飲み物を差し出すグートルーネを描いた、ユーゲントシュティール様式のリトグラフが贈られました。
豊富な話題を提供した『トーキョー・リング』も今年の『神々の黄昏』でいよいよ最後。サイクル上演は未定ですが、是非これを実現させ、日本で演出・初演される初の『ニーベルングの指環』一挙上演という歴史的な日を迎えたいものです。その際に同様なパーティーで再会できることを祈りつつ、楽しい会はお開きとなりました。
1.パーティーの席上、ヴォルフガング・ワーグナー夫妻から日本ワーグナー協会に贈られたユーゲントシュティール様式のリトグラフ。テーマは、ジークフリートに飲み物を差し出すグートルーネ。(画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)
2.日本ワーグナー協会名誉会長でもあるヴォルフガング・ワーグナー氏。
大作である『神々の黄昏』を上演なさった歌手、関係者、観客、日本ワーグナー協会員の皆様が一堂に会するのは素晴らしいことです。皆様にお会いできるのは私共にとり、とても嬉しいことですし、作品について語りあうのは大変有意義なことです。
祖父のリヒャルト・ワーグナーには、日本の方達が自分の為に集まることになるとは考えられなかったと思いますが、現在では、日本人抜きでワーグナーを考えることは出来なくなっています。『ニーベルングの指環』という巨大な作品に皆様が挑戦されたのは偉大なことです。これがいかに困難な作品であるか、バイロイト上演の経験から、私は十分承知しております。今回上演に携わってくださった方達がワーグナー作品を良くご存知であることを私は存じており、りヒャルトの孫として皆様に感謝いたします。新国立劇場が、大変な努力をもってこれだけの作品を上演なさるとは、予想もできませんでした。
ヨーロッパでは今、オペラ上演が危機に瀕しています。そのような時に、日本で『ニーベルングの指環』が上演されたことに大きな感銘を受けています。演じられたアーティストの方達、スタッフが力を合わせて上演なさったこと、そして、観客の皆様にも感謝いたします。
3.演出家のキース・ウォーナー氏。
4年間、実際には6年間なのですが、長年にわたって素晴らしい機会をお与え下さったことに感謝いたします。『ニーベルングの指環』は多面性を持ち、無限の可能性を秘めた作品です。今回私は、その一つの面を舞台にいたしました。関係者との協力により、誇りを持てる仕事ができたと自負しております。私にとって最も重要なのは、ワーグナーにとっては劇場と楽劇が社会の中心にあることです。作品を社会の中心に据え、それをめぐって政治等、社会の色々な側面について議論が展開されるわけです。劇場をヨーロッパ社会の中心に戻したということが、ワーグナーの非常に偉大な功績だと私は考えております。
日本ワーグナー協会の皆様にお願いしたいのですが、ワーグナー、日本の作曲家、ヴェルディ等のオペラ上演に限らず、できる限りの手段であなたの劇場を支援してください。 これは資金面に限ったことではありません。可能な方法で、あなたのコミュニティーの劇場をサポートしてください。そうすることで、日本ワーグナー協会は、真のワーグナー精神を持つことになると思います。最後に、皆様1人1人が、『トーキョー・リング』サイクル上演の実現に向けてご尽力くださるようお願いいたします。日本のことは決して忘れません。
4.ブリュンヒルデのスーザン・ブロック氏。
5年程前にキースから電話があり、「日本でブリュンヒルデを唄わないか、」とのオファーを受けた時には危うく倒れそうになりました。結局出演を決意したので今ここにいるのですが、本当にとても素晴らしい3年間でした。キース、出演者を始め、協力してくださった全ての方達に心からお礼を申し上げます。私にとってブリュンヒルデを舞台で歌うのは、非常に高い山を登るようなものでした。次に越えるべき山は、この『指環』のサイクル上演でこの役を唄うことです。これも是非実現させたいと思います。表舞台には登場しませんが、公演の成功に多大な貢献をしてくださった舞台裏の制作スタッフにも、心からお礼を申し上げたいと思います。
5.ジークフリートのジョン・トレレーヴェン氏。
日本に戻ってこられてとても嬉しく思っております。 特に、スーザン、キースと一緒に仕事ができるのは大きな喜びです。昨年の『トーキョー・リング』は、私にとって5演出目の『ジークフリート』でした。新演出に出演するのは困難な場合もあります。でも今回は、イマジネーション豊かなキースが演出し、まして魅力的なスーザンとの共演ですから、大変な仕事も楽しい物となりました。最後に、これは毎日心から感じていることなのですが、リヒャルト・ワーグナー氏に、「素晴らしい作品を書いてくれてありがとうございます、」と申し上げたいと思います。
6.グンターのローマン・トレーケル氏。
トレレーヴェンさん、約束の1分以上話しましたね。 機知に飛んだ話、言うべき事、感謝すべき人達等、全て他の人達に言われてしまいました。ですから、お話しできる事は余り残っていませんが、今回東京で私にとって初めてのグンターを唄うことができ、とても嬉しく思っています。 この役柄については、キースを始めとする色々な方達と、非常に多岐にわたって討論を重ねました。中には驚くような内容の物もありましたが、意味深いやりとりを沢山いたしました。終演後、サインを求めて長時間待っていて下さった大勢の観客の皆様にも、心からお礼を申し上げます。また、劇場の裏方の方達にも色々とお気遣いいただき、ありがとうございました。
7.ハーゲンのユルキ・コルホーネン氏。
昨日ハーゲンを唄いましたが、これは私にとって、この役でのデビューとなりました。キース、スーザン、ジョン等の『トーキョー・リング』のチームと一緒に仕事ができたことを、とてもありがたく思っています。私の母国であるフィンランドにはバスの歌手が大勢いますが、その中から最初のハーゲンを東京で唄うチャンスを与えていただき、心から感謝しています。
8.グートルーネの蔵野蘭子氏。
この4年間、『トーキョー・リング』に出演できたことに感謝しております。公演を観ていただいた方に、第3幕のグートルーネの黒の衣装についてご質問いただくのですが、あれは1回目のゲネプロでは黒の衣装だったものが、2回目のゲネプロでは黒の前にピンクの衣装を脱ぐことになる等、キースは最後の最後まで色々と細かい調整をし、情熱を持ってこのオペラに取り組んでいました。グートルーネは唄うというよりは演技することが多いのですが、キースと一緒のこの公演では私も大いに楽しませていただきました。あと残り4回の公演も、楽しみながら演じたいと思っております。
9.アルベリヒのオスカー・ヒッレブラント氏。
私は、『黄昏』で舞台上にアルベリヒが登場する時間より長く話してはならない、という難問をかかえてここに来ました。 私は『トーキョー・リング』では古顔で、『ラインの黄金』から出演しています。ウォーナー氏とは今回初めて一緒に仕事をしたのですが、最初に衣装を見た時には、正直なところ、「またもやモダンなゴミ演出か!」と思いました。ところが始まってみると、アルベリヒはこれまで異なった演出で38回唄っていますが、今回が最高の演出だと痛感しました。新国立劇場のノヴォラツスキー新オペラ芸術監督に、是非『トーキョー・リング』のサイクル上演を実現していただきたい、とお願いしたいと思います。
10.フロスヒルデの大林智子氏。
このプロダクションに参加させていただいて本当に素晴らしい経験をさせていただいておりますが、ウォーナー氏の演出はどの演出とも全く違い、スリルとサスペンス、エキサイティングでとても大変です。第3幕でラインの乙女達は、約5キロの衣装を着けて大変太らされております。あれは本物の体ではないと是非皆さんに知っていただきたいと思います。数少ない日本人キャストなのですが、私達も、『トーキョー・リング』のサイクル上演を切に願っております。この4年間、出来るだけクレージーにやってほしいと言われ続けて来ました。今後もそのように頑張りたいと思いますので、皆様ぜひ応援してください。
11.ヴォークリンデの平井香織氏。
2年前の『ワルキューレ』で生まれて初めてワーグナーを唄い、今回が2回目のワーグナー作品への出演です。このプロダクション以外でワーグナーを唄ったことはないのですが、私はとてもラッキーな体験をしていると思います。演出家のウォーナー氏は、私達に単に唄うよりも大変な仕事をいつも下さるのですが、『ワルキューレ』の時も、登場して最初に扉を蹴飛ばすという役目を頂きました。私も是非あの扉をもう一度蹴飛ばしたいと思っておりますので、サイクル上演が実現するよう、ご協力を宜しくお願い申し上げます。
12.トーマス・ノヴォラツスキー新国立劇場オペラ芸術監督。
新国立劇場は皆様のものです。ご希望、ご意見をご遠慮なくお聞かせください。新国立劇場では、ワーグナー、モーツァルト、ヴェルディの作品を演目の中心に据えて行きたいと考えています。『トーキョー・リング』のサイクル上演に必要な物は、資金、劇場専属のオーケストラ等、まだまだ色々とありますが、いずれ実現したいと思います。まずは、今年の8月に子供向けの『ニーベルングの指環』を2回日本語で上演いたしますので、そちらもよろしくお願い申し上げます。